妊活を始めると色々な用語が登場します。そんな中で最初の頃に「まずは基礎体温をつけてみましょう。」というフレーズを目にした方も多いのでは。クリニックに通院したら、「基礎体温を家でつけて持ってきてください。」と言われた方もいらっしゃるでしょう。
そもそも基礎体温って何?どうやってつけたらいいの?何がわかるの?どうやって見たらいいの?この基礎体温は問題あり?今回はそんな疑問にお答えします。
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目次
基礎体温とは
基礎体温とは、食事や運動などの影響を受けていない、安静な状態で測った体温のことです。毎朝、口の中で計測します。正常な基礎体温では、卵胞が育っていく時期の「低温期」と排卵後の時期の「高温期」に分かれ(二相性と呼びます)、二相に分かれていると排卵している可能性が高いと考えます。適切な期間低温期や高温期が続いているか、体温に差があるかを見ていくことで、その周期が排卵しているか・無排卵か、あるいは妊娠の可能性があるかなどを判断する指標になります。
基礎体温の周期タイプと特徴をグラフで確認
基礎体温がどのように変化するか、例とともに見てみましょう。
①正常タイプ
月経周期の正常範囲は、25-38日です。高温期は通常2週間前後でほぼ一定であり、月経周期によって低温期は10日程度から20日以上と大きく変化しますが、高温期がしっかりあり、月経周期が正常範囲内であれば低温期の期間の長さについてはそれほど心配する必要はありません。また、低温期から高温期への移行期間が1,2日程度と短い方や3,4日程度かかる方もいますが、いずれも月経周期が安定していれば大きな問題はないと考えます。
②高温期が短いタイプ、高温期がガタガタしているタイプ
高温期が9日以内だったり、体温の上下が激しく安定しない場合は、黄体機能不全(※)という状態が疑われます。これは、排卵後に分泌される黄体ホルモンが十分に分泌されていない状態です。
③2相性に分かれていないタイプ
基礎体温が全体的にガタガタしていたり、高温期がはっきりしない、あるいは低温期がずっと続いて生理が来る・逆に長期間来ない場合は排卵がうまくできていない可能性があります。月経周期が乱れがちだったり、月経量が少なかったり、期間が短い場合はその可能性が高まります。また、きちんと計測できていない場合もあります。
④高温期が続くタイプ
高温期は通常2週間程度ですが、3週間以上続く場合は妊娠の可能性があります。排卵と考えられる時期から3週間程度経過して高温期が続いている場合は妊娠検査薬を試してみると良いでしょう。高温期が続き。妊娠反応が陽性でも、異所性妊娠(子宮ではない場所に妊娠すること)や流産など、以上妊娠ではないか確認が必要です。
※黄体機能不全とは
排卵後に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が十分でないことにより、高温期が短くなったり、低温期と高温期の差が0.3℃以下になります。ただし、このプロゲステロンは1日の間の血中濃度の変動が激しかったり、子宮内膜への反応が評価できないなど多くの問題もあります。そのため、海外のガイドラインでは不妊症に実際に関与するかはいまだ議論があり、積極的な黄体機能不全の診断・治療は推奨されていません。
基礎体温の変化から分かる「高温期」「低温期」の特徴
基礎体温表の例には36.5-36.7℃が目印となっていることが多いですが、あくまで目安でありそれに囚われる必要はありません。月経中の体温が基本的な自分のベースと考えましょう。
「低温期」は月経期から卵胞が育つ卵胞期を経て排卵までの期間、「高温期」は排卵してから次の月経までの期間で、低温期と高温期の差は0.3℃以上を目安とします。低温期は月経周期により長さにばらつきはありますが、全体の月経周期が正常範囲内であれば気にしすぎる必要はありません。
この低温期から高温期に変化する辺りが排卵期と呼ばれ、排卵すると考えられていますが、「低温期の最終日」「体温が一番下がった日」「高温期の初日」など諸説あります。実際には正確に排卵した日を断言できないため、排卵日を基礎体温のみで予測するのは困難です。後から基礎体温を見返したときにこのあたりで排卵しただろう、という参考にはなるでしょう。
高温期は、排卵した後に形成される黄体から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)によって体温が上昇します。この黄体は約2週間でその役目を終えるため、高温期も約2週間程度続きます。妊娠していない場合は体温が下がり、月経とともに低温期が始まります。
基礎体温のグラフで注目するべきポイント
① きちんと2相に分かれているか
低温期から高温期にきれいに分かれていると、排卵している可能性が高いと考えられます。また、後から見返したときに低温期から高温期に移行した時期に排卵した可能性が高いと推定できます。
② 高温期が維持されているか
高温期は約2週間続きます。高温期が短かったり、ガタガタしている場合はしっかり卵胞が育っていない、またはうまく排卵できていないことを疑います。高温期が維持されていても極端に低温期が短い場合はホルモンバランスが乱れていることがあります。逆に、高温期が長く続く場合は妊娠の可能性があります。
③月経周期が適切な範囲内か
2相性に分かれていても、低温期、高温期ともに短く月経周期が短い場合は、卵胞が小さいままで排卵し、結果として黄体もきちんと形成されていないことがあります。年齢が高かったり、若くても卵巣機能が低下しているとこのような状態になります。
では上記が満たされていれば排卵は確実にしていると言えるのか?というと必ずしもそうではありません。
「黄体化未破裂卵胞」といって、うまく排卵できないものの黄体ホルモンは分泌され、一見高温期はあるように見えるにもかかわらず、妊娠しない状態が隠れていることがあります。この場合は積極的な排卵誘発であったり、体外受精を考慮する必要があります。
そのため、しっかり2相性で、高温期も保たれていても、半年から1年程度妊娠しないようなら病院を受診しましょう。
基礎体温は変動も大きく、毎日毎日1日ごとの体温に一喜一憂しすぎる必要はありません。少なくとも1周期、可能なら3周期程度記載し、周期全体の変動パターンを見ることが大切です。
また、どんなに健康な方でもたまには排卵しない周期もありますので、たまたま1周期基礎体温が安定しないからといってすぐに落ち込むことはありません。自分の全体的な傾向を掴む判断材料の一つと考えましょう。
妊娠した場合の基礎体温の変化
妊娠した場合、基礎体温は高温期が続きます。
先述のとおり、排卵後は黄体が形成され、そこから黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。このホルモンは基礎体温を上昇させる作用があり、低温期から比べると0.3-0.5°体温が上昇します。黄体は通常2週間程度でその役目を終え、月経が始まるころに体温が低下します。妊娠していると、この作用が継続するため体温は下がらず、3週間程度高温期が持続すると妊娠している可能性が高いと考えます。体温の上昇はしばらく続きますが、胎盤が形成される妊娠14-15週くらいに徐々に低下していきます。
ただし、妊娠でなくても、黄体ホルモンの薬や、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を使用していると高温期が長く維持されることもあるため、基礎体温だけで判断せず、妊娠検査薬を使用したり、正常妊娠かの確認のために病院で診察を受ける必要があります。
また、「妊娠して胎嚢(赤ちゃんのお部屋)も見えたけれど、体温が下がった気がして心配。赤ちゃんが育っていないのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、基礎体温は妊娠の経過を反映しません。「体温が一定=順調に育っている」「体温が下がった=流産」はいずれも正しくはありません。病院で子宮内妊娠であることが確認出来たら、基礎体温の意義はないと考えて良く、上がり下がりが心配になるようなら中止してしまって良いでしょう。
基礎体温の正しい測り方
① 基礎体温用の体温計を使う
まずは専用の体温計を用意しましょう。通常の体温計は脇の下で計測して小数点以下一桁まで表示されるのに対し、婦人体温計は舌下で計測し小数点以下二桁まで表示されるため、より正確な評価ができます。
また、種類によっては計測した体温を自動的にアプリにアップロードし、基礎体温表を作成してくれるものもあります。毎日のことなので、継続するのが面倒という方は、これらの機能がついているものがおすすめです。
朝起きた時、活動する前に婦人体温計を舌下に挿入する
基礎体温は、動いてしまうと簡単に上昇します。うっかりトイレに行った後や、水分を取った後に測ると、それだけで体温は変動します。枕元に体温計を置いておき、アラームを止めるついでに体温計を口に入れるように習慣化してしまうと良いかもしれません。
②体温のほかに、生理日、性交渉を持った日、おりものが増えた日や不正出血があった日、薬を内服した日なども記録しておく
月経周期が何日か、高温期が何日続いたかは基礎体温をつける上で重要な情報です。それ以外にも、性交渉を持った日が書いてあると、妊娠の可能性がある時期や、妊娠した場合の週数の推定に役立つことがあります。内服している薬の内容によってはあとどれくらいで月経が来るかの予想や、月経が遅い・早いなどの原因の推定ができることもあります。
また、不正出血があった場合、どの時期に出血したかによって、無排卵が疑われる、あるいは着床出血の可能性があるなど、原因を考えるのに役立つこともあります。
以上のように、基礎体温表に情報を追加しておくと、妊活のみならず、女性にとっての日々の健康の記録にも役立ちます。
いずれにしても大事なのは、神経質になりすぎないこと。1日きちんとできなかったからやめてしまったり、基礎体温をつけること自体がストレスになってしまっては意味がありません。大体の自分の傾向がわかればよい、とゆったり考えるのも必要です。
基礎体温が変化しない時に考えられることは?
① 排卵していない
低温期が長く続く、あるいはガタガタしていて2相性に分かれていない場合は、きちんと卵胞が育っていなかったり、排卵ができていない可能性があります。
② 妊娠している
高温期が長く続く場合は、妊娠の可能性があります。
③ きちんと計測できていない
基礎体温は睡眠時間や睡眠環境、前日の食事時間や量、アルコール摂取の有無、四季の変化、空調など非常に様々な環境の影響を受けます。そのため、正確に計測するのは難しい場合も多々あります。睡眠不足や起きる時間がバラバラでも変化が見えにくいことがあります。
基礎体温の変化がない、はっきりしない場合は病院を受診しましょう。月経はきていると思っても、無排卵周期という状態があります。この場合、月経量が少なくなることもありますが、微量でも子宮内膜が厚くなって剥がれ、それほど量に変化がなく自己判断は難しいことも多いです。
病院では採血でホルモンバランスを調べたり、超音波で卵胞が育っているか調べることができます。自然に卵胞が育っているなら性交渉の適切なタイミングのアドバイスを受けられますし、必要に応じて排卵誘発剤を使用して妊娠の可能性を上げることができます。
妊娠初期にみられる体の変化や症状
妊娠初期には様々な症状が現れます。
- ・胃がむかむかする
- 特定のものが食べられなくなる、あるいは食べたくなる
上記はよくある「つわり」の症状です。食欲が落ちたり、吐いてしまうこともあります。食べられるものを食べたいときに食べるのが基本ですが、昨日食べられたものが今日は無理…など、食べられるものはその日によって変わることも。妊娠初期に関しては食事のバランスは一旦置いておき、自分が食べられるものを食べましょう。あまりにも食事の量が減ったり、水分が取れない場合は、入院して点滴しながら様子を見ることもあります。
アメリカの産婦人科学会では、ビタミンB6の経口摂取がつわりの症状の改善に有効との報告があるため、つわりがひどい方は摂取してもよいかもしれません。
- ・眠気、だるさを感じる
妊娠初期に高温期を維持するプロゲステロンは眠気を強くする作用があります。何をしていても眠くてつらい、という方も。無理せず寝られる環境の時は休みましょう。
- ・少量の出血がある
妊娠初期は着床による出血や、胎盤を作る過程で生じる絨毛膜下出血、びらん(子宮の入り口がただれていること)、ポリープなど様々な理由で出血が起きることがあります。超音波で子宮内妊娠が確認されていれば「様子をみましょう」となることが多いですが、まだ診断されていない場合は異所性妊娠(子宮内ではない場所に着床すること)など、異常妊娠の可能性があるので早めに受診を。
また、正常な妊娠でも少量の出血が起きることは珍しくなく、「出血=流産」ではありません。流産予防効果が確立された薬も存在せず、過度の安静が流産予防になるエビデンスもないのが現状です。とはいえ、出血が増えてきた、お腹が痛いなど心配な症状があれば病院に相談を。
- ・腰が痛い、下腹部が痛い
妊娠すると骨盤の関節を緩めるホルモンが分泌されたり、子宮が少しずつ大きくなる過程で子宮を支える靭帯が引っ張られる牽引痛など、さまざまな原因で腰痛や下腹痛が出現することがあります。超音波で子宮内妊娠が確認されていれば大きな問題はないことが多いですが、どんどんひどくなる、強い痛みになる場合は病院を受診しましょう。
- ・おりものの量が増える
妊娠中はおりものが増える傾向になります。色が黄色や黄緑になったり、匂いが強くなる場合は感染を起こしていることがあるので、病院に受診してください。
- ・便秘がちになる
ホルモンの影響で便秘がちになる方がいます。ホルモンの影響だったり、つわりで食事量が減ったり、水分が減ったりすることによるものです。水分は一気にとると吐き気が強くなることが多いので、少しづつ頻繁にとるようにしましょう。便秘がひどい場合は妊娠中でも飲める薬があるので医師に相談を。便秘は初期に限らず妊娠中ずっと悩まされることも多く、放置するとひどい腹痛を起こしたり、痔が悪化することがあります。
- ・においに敏感になる
妊娠すると今まで大丈夫だったにおいが突然気になることがあります。よくあるのが、ご飯の炊ける匂い、香りが強い食べ物の匂い、今まで大丈夫だったシャンプーやリンス、芳香剤の匂いがダメになる方もいます。なるべくそれらを避けるのが理想ですが、難しい場合はマスクをしたり、自分にとって大丈夫な香り(柑橘系が大丈夫な方が多いです)を使ってみるのがおすすめです。匂いが辛くてスーパーに買い物に行けなくなる方もいます。パートナーの方にお願いしたり、ネットスーパーも活用しましょう。
- ・唾液が増える
いわゆる「よだれつわり」といい、初期に唾液が増える方がいます。飲み込むのがつらい場合は、ペットボトルや水筒を持ち歩き、そこに出すようにしましょう。
- ・立ち眩みが起きる
自律神経が乱れることで、めまいや立ち眩みが起きます。妊娠中は貧血が悪化して一時的に倒れる方もいらっしゃいます。突然倒れると危険なので、調子が悪いなと思ったら無理せず座る、しゃがむなどで対応しましょう。
- ・気持ちが不安定になる
ホルモンの影響でわけもなくイライラしたり、悲しくなることがあります。感情のコントロールが難しくなることがあるため、パートナーに理解してもらえるよう話しておくと良いでしょう。
- ・胸が張る
出産に向けた体の準備として、乳腺が張り痛むことがあります。人によっては母乳が少量出ることもあります。
- ・頭痛
血管が拡張することで頭痛が出現することがあります。暗い部屋で冷やして安静にすることで経過をみてもよいですが、ひどい場合は医師に相談を。
生理前の症状と妊娠初期の症状はとてもよく似ています。症状だけで妊娠かどうか判断するのはとても難しいです。そこで、基礎体温で高温期が続いているかが一つの判断材料になります。
高温期が3週間程度続いているようなら妊娠の可能性があると考え、病院に受診しましょう。
妊活のご相談は松本レディースIVFクリニック
当クリニックは、「赤ちゃんが欲しいのになかなかできない」と悩んでいらっしゃる方のための不妊治療専門クリニックです。
妊娠しにくい方を対象に、不妊原因の探索、妊娠に向けてのアドバイス・治療を行います。
1999年に開業し、これまで、不妊で悩んでいた多くの方々が妊娠し、お母様になられています。
当院の特徴につきましてはこちらをご参照ください。
https://www.matsumoto-ladies.com/about-us/our-feature/
まとめ
今回は基礎体温のいろいろなタイプ、そこからわかることや正しい測り方についてお話ししました。
基礎体温を測ることで、自分が排卵しているのかしていないのか、いつ頃が妊娠しやすいのかなど、自分の体調やリズムを知る助けになります。基礎体温がすべてではありませんが、おかしいなと思ったら病院に相談するきっかけにもなります。ストレスにならない程度に、毎日の習慣に取り入れてみましょう。