待望の妊娠をして、赤ちゃんに会える日を楽しみにしていたのに、検診で「赤ちゃんが成長していない」と言われ、流産の診断を受けることがあります。流産が起きる確率はけして低くはなく、実は意外と多くの方が経験していらっしゃるのですが、あまり他人に言うことではないため、自分を責めて苦しい想いをされる方がいます。その中でも何回か流産を繰り返す方は「不育症」と診断されます。今回は不育症について、その検査や対策などを正しく知り、不安な気持ちを少しでも解消していただければと思います。
池袋駅 東口から 徒歩3分
働きながら、通いやすい。
最善の手段が選べる妊活を。
松本IVFレディースクリニックは、
最新のテクノロジーを駆使し、
短期での妊娠成立を目指す、
すべての人に最適な
妊活を提供します。
不育症とは何か
不育症とは「妊娠したものの、流産・死産を2回以上繰り返す状態」を言います。現在のところ、化学流産(妊娠反応は陽性になるものの、胎嚢の確認ができず、そのまま生理が始まる)は流産には含められていません。
また、2回流産を繰り返すことを「反復流産」、3回以上流産を繰り返すことを「習慣流産」と言います。不育症はこの22週以前の流産を繰り返す「反復流産」「習慣流産」に加え、死産や早期新生死亡を繰り返すことも含まれます。流産は12週までに起こる早期流産が90%を占めます。早産や妊娠高血圧症候群は含まれません。
流産は妊娠の最大の合併症であり、約15%に起きます。女性の年齢とともに上昇し、40歳代では40%以上にも上ります。環境省による日本初のbirth cohortである「こどもの健康と環境に関する全国調査」によれば、不育症の頻度は5%、習慣流産の頻度は1%でした。欧米でも同様の頻度と報告されています。
このように流産自体は非常に稀な出来事とは言い難く、基本的には1回の流産では不育症の検査および治療の対象にはなりません。しかし、何回も繰り返す場合はリスク因子が隠れている可能性があり、その場合は対策をすることで出産まで至る可能性が高くなることが考えられます。
Anne-Marie Nybo Andersenら. BMJ 2000より改変
不育症のリスク因子となるもの
不育症精査を行った1676人の異常頻度(生殖医学の必修知識、日本生殖医学会より)
不育症のリスク因子にはまだわかっていないことが多く、検査を行っても半数以上は原因不明とされています。しかし、不育症の方が検査をするとある一定の頻度で異常が見つかることがあり、これがあると流産しやすいと考えられ、「リスク因子」と呼ばれます。そのため、不育症の検査は原因を特定するのではなく、リスク因子を検索するという意味合いが大きいです。また、そのリスクがある方が100%流産するというわけではありません。
流産を起こす原因、リスク因子を大別すると、「胎児側」「母体側」「その両方」となります。
胎児側の原因として、多くは赤ちゃんの染色体異常があります。染色体は人の体を作る設計図のようなもので、それに異常があるとどこかで発育が停止してしまいます。染色体の異常は夫婦のどちらかの染色体に問題があるケースもありますが、多くは卵子や精子の段階、受精した段階、受精卵が細胞分裂した段階など、偶発的に起こってしまうものが多く、いわば「たまたま起こってしまった」異常であり、治療の方法はなく、次回の妊娠がうまくいくかは無関係です。年齢とともにこの確率は上昇します。
母体側のリスク因子としては
①血栓性疾患(抗リン脂質抗体症候群など)
体質的に血栓ができやすい傾向の方がいます。このような方が妊娠すると、胎盤への血流低下が引き起こされ、早期流産や妊娠中期・後期での胎内死亡、妊娠高血圧腎症、常位胎盤早期剝離、胎児発育不全が起きる可能性があります。
②夫婦染色体異常
夫婦のどちらかの染色体に均衡型相互転座やRobertson転座などがある場合があります。転座とは2種類の染色体の一部で切断が起こり、お互いに場所を入れ替え再結合したものです。二つの染色体の形は異なりますが遺伝子の量的な過不足はないため、その因子を自分自身が持っていても特に自覚症状はありません。ただし精子や卵子などの配偶子を作るために減数分裂をすると、一定の確率で受精卵の遺伝子に過不足が生じ、流産につながります。
③子宮形態異常
発生の過程で子宮の形に異常が起きることで、子宮の内腔の変形により妊娠の継続が難しくなります。子宮の発達・分離異常により、Ⅰ無形成・低形成、Ⅱ単角子宮、Ⅲ重複子宮、Ⅳ双角子宮、Ⅴ中隔子宮、Ⅵ弓状子宮、Ⅶ DES製剤由来の形態異常、に大別されます。
④内分泌異常
甲状腺機能低下症・亢進症は流早産や周産期死亡のリスクを上昇させると言われています。
何科で受ける?不育症の検査・診断方法
不育症の検査は産婦人科で受けられます。ただし産婦人科ならどこでも可能というわけではなく、特に「不育症」を専門としている病院、クリニックで検査を受けるのが良いでしょう。
不育症の原因精査のために必要な検査
①血栓性疾患:血液検査
抗カルジオリピン抗体IgG/IgM、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラントは強く推奨されています。プロテインC、プロテインS欠乏症や第Ⅻ因子欠乏症も不育症と関連すると言われていますが、血栓症の既往や家族歴がある場合を除いて多くのガイドラインではルーチンでの検査は推奨していません。
②夫婦染色体異常:血液検査
末梢血液中の白血球から染色体を取り出し、Gバンド法という特殊染色を行って染色体の数や構造の異常がないかをみる検査です。しかし転座に対する根本的な治療は存在しないため、十分な遺伝カウンセリングが必要です。
③子宮形態異常:超音波検査、MRI、子宮鏡検査、子宮卵管造影など
超音波で子宮内膜が途中で分かれている様子が見えると上記の診断が可能です。3D超音波検査は特に高温期に行うと中隔子宮や双角子宮の診断も行いやすくなります。また、子宮鏡検査で実際に子宮の中を観察したり、MRIや子宮卵管造影でも詳細に子宮形態異常が診断できます。
④内分泌異常:血液検査
甲状腺異常に関連するTSH、FT4,抗TPO抗体を始め、低温期(月経中)であればLH,FSH,PRLなどの基礎的なホルモンを測定することもあります。
⑤胎児の染色体異常:流産時絨毛染色体検査
流産手術の際、絨毛組織を用いて染色体検査を行うことができます。2回目の流産時にこの検査をすると、染色体異常があれば胎児の染色体異常と原因がはっきりしますし、染色体異常がなければさらなる原因検索を行うきっかけとなります。
不育症の治療方法
①血栓性疾患:アスピリン単独またはヘパリン/アスピリン併用療法
血栓をできにくくする上記の薬を使用することで、流早産のリスクを減らすとされています。
②夫婦染色体異常:PGT-SR(着床前診断)
夫婦のどちらかに転座がある場合、受精卵の一部の細胞を採取してその構造を調べ、不均衡型のものを除いて移植する方法です。しかし、PGTを行っても自然周期で経過を見ても60-80%は最終的に正常な児を得ているという報告もあり、経済的な負担や身体的な負担など慎重に判断する必要があります。
③子宮形態異常:手術
日本において中隔子宮に対して手術を行うと出産率が改善するという報告があります。一方で国際共同研究では手術をしても出産率は改善せず、流早産率も減少しないという報告があり、手術の効果は一定の見解を得ていません。
④内分泌異常:内服
甲状腺ホルモンの異常は流早産のリスク上昇のみならず、胎児の知能にも影響すると言われています。甲状腺に異常が見つかった場合は原則甲状腺専門の医師のもと治療をした方が良いでしょう。
不育症の治療にかかる費用と助成金制度について
不育症の検査については全ての施設で一律の項目が定まっているわけではなく、各病院により検査の項目が異なります。保険適応になる検査項目から自費で行っている検査まで様々であるため、詳細は各施設に問い合わせてみましょう。一般的に保険適応の範囲で2万円程度から、自費では項目により2-5万円程度かかります。
また、自治体により不育症検査に助成金が出る場合があります。
例えば東京では
1 検査開始日において、法律上の婚姻又は事実婚をしていること。
2 検査開始日における妻の年齢が43歳未満であること。
3 検査開始日から申請日までの間、夫婦いずれかが継続して東京都の区域内に住民登録をしていること。
4 2回以上の流産や死産の既往があること。又は医師が不育症と判断した者であること。
上記の項目を満たしたうえで特定の検査に対して5万円を上限に助成されます。
助成金については自治体ごとに異なり、また終了することもあるため、ご自身でも問い合わせてみましょう。
不育症の経験談
Aさん 29歳
結婚して半年、自然妊娠したものの、8週で心拍が確認できず流産と診断されました。流産手術の5か月後に再度妊娠され、赤ちゃんの発育は順調でしたが、妊娠20週に検診に行った際に赤ちゃんの心臓が止まっていることがわかりました。1回の流産、1回の死産があったため、不育症の検査を受けたところ、抗リン脂質抗体症候群と診断されました。そのため、次の妊娠判明後にはバイアスピリンの内服、ヘパリンの自己注射を行いながら慎重に経過を見ていきました。そして無事に38週で出産されました。
Bさん 34歳
結婚後すぐに自然妊娠しましたが、10週で流産と診断されました。その後も1年の間に2回自然妊娠しましたが、いずれも初期の流産となりました。妊娠はできるものの流産を繰り返しているため不育症の検査をしたところ、夫婦の遺伝子に転座が見つかりました。年齢を考慮して、体外受精を行い、できた受精卵に対してPGT-SR(着床前検査)を行うことにしました。得られた正常胚を移植し、40週で出産されました。他に正常胚が2つ凍結できているため、第2子もその胚での治療を行う予定です。
まとめ
今回は不育症について説明しました。実際のところ流産は稀ではない確率で起きますが、経験した方にとっては肉体的にも精神的にも非常に大きなストレスになります。また、次の妊娠を考えるまでお休み期間が必要になるため、焦りを感じる方もいらっしゃいます。流産や死産を繰り返した場合は一度不育症の検査を考えてみましょう。リスク因子がある場合は、それに対して適切な対策をすることで、出産につながる可能性が高くなります。