「子供が欲しいと思ったけれど、中々妊娠しない…私たちは不妊症なのか心配。」そんな悩みを抱えるカップルがこのページを読んでいらっしゃるかと思います。2022年から不妊治療が保険適用となり話題となりましたが、まだまだ不妊症に対する漠然とした不安や費用面への心配がある方もいるのでは。
今回は不妊症について、原因や検査、不妊治療を始めるタイミングや具体的な治療について説明します。
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目次
不妊症とは
「不妊症」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交渉をしているにも関わらず、一定期間妊娠しないものをいいます。以前はこの「一定期間」は2年とされていましたが、昨今「1年」と言われるようになりました。
ただし、「1年」というのは絶対的な期間ではなく、年齢が上がると妊娠率が下がることを考えると、不妊症と診断するために1年待つことが正しいとは言えません。期間はあくまで目安でしかなく、カップルの状況によってはそれを待たずに治療を考えた方が良いケースも多々あります。
生理周期が乱れがちだったり、生理痛が極端に強い、年齢が高いなどは不妊症になりやすいと言えます。以下の記事で不妊症の危険因子について説明しますが、当てはまる点が多い人は長期間自然に待たずに、できるだけ早く病院に受診するのをお勧めします。
特に女性の年齢が30代になると、少しずつ妊娠率が低下し、流産率が上昇します。30代前半からその傾向はみられますが、35歳を超えるとさらにその傾向は顕著になります。医学は進歩しましたが、不妊治療が時間との勝負であることは否めません。1年待つことが結果に大きく影響する可能性があるため、30代で子供が欲しいと思ったら1日でも早い受診をお勧めします。
不妊症と病気の違いは?
不妊治療は保険適応となりましたが、厳密にいうと不妊症は病気ではありません。
検査をして何らかの原因を特定して不妊症と診断するのではなく、「1年間性交渉を持っても妊娠していない」状態を総称しています。
不妊症につながる要因として、排卵障害や子宮内膜症があり、それらは「病気」です。ただしそれらの病気があってもすぐに妊娠する方も少なくなく、「病気はあるけれど不妊症ではない」となります。
一方で、特に背景となる病気がなくても1年間妊娠しなければ「不妊症」ということになります。
そのため、「不妊症かどうか検査で調べる」というのは医学的には正しくなく、「1年間妊娠しないこと」が不妊症であり、検査をするのは不妊症であるかを調べるのではなく、「不妊症につながる病気がないか調べる」のが正しいと言えます。また、上記の理由から「原因は特に見つからないけれど不妊症」ということは十分にあり得ます。
一般的な病気は熱や痛みなどの不快な症状があり、原因を特定して治療することが多いですが、不妊症はそういった自覚症状がないのも病気との違いです。
不妊症の検査では現在の医学で調べられる範囲の原因を検索しますが、妊娠のプロセスは非常に複雑であり、お腹の中で起こっている全ての事象を調べることはできません。そのため、不妊治療を開始した場合は、原因は不明でもそこをカバーする治療を行っていきます。
不妊症の原因【カップル両方】
生殖医療の必修知識:生殖医学会編より
このグラフからわかるように、女性側の原因(卵管因子、排卵因子、子宮因子)が約50%、男性側の原因は35%あります。その他に原因不明が10-20%程度あり、これが男女共通の不妊の原因と言えます。
1. 免疫因子
精子に対して免疫反応が起き、受精卵ができにくくなります。男性側の場合、精子減少症や無精子症の原因となります。女性側の場合、精子の運動を妨げたり、卵子と精子の結合を阻害したり、受精卵の発生に影響を与えると言われています。
2. 原因不明因子
様々な検査を行っても原因が特定できないケースもあります。
不妊症の原因【女性側】
女性の不妊症の原因には、排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子などがあります。これらを順に説明していきます。
①排卵因子:排卵しにくい、あるいは排卵しない
月経周期が25日―38日型で、基礎体温が二相性の場合、多くの場合は排卵している可能性が高いと言えますが、24日以下(頻発月経)、39日以上(稀発月経)、90日以上(続発性無月経)の場合は排卵しにくかったり、排卵していないことがあります。
排卵障害の原因は様々ですが、プロラクチンという乳汁を分泌させるホルモンの分泌が多くなりすぎる「高プロラクチン血症」によるものや、男性ホルモンの分泌が多すぎる「多嚢胞性卵巣症候群」などのホルモン異常があります。また、大きな精神的ストレスがあったり、短期間に大幅なダイエットをして体重が大きく減った場合にも排卵が起きにくくなります。
②卵管因子:卵管の通りが悪い
性感染症の一つであるクラミジア感染症は、卵管が詰まったり、卵管の周囲が癒着して、卵管に卵子が取り込まれにくくなることがあります。また、卵管の中にある繊毛があり、この運動により受精卵が子宮まで送られていきますが、クラミジアに感染するとこの繊毛運動が障害されるため、不妊症の原因となることがあります。女性ではクラミジアに感染しても症状がない方も多いため、気づかずに症状が進行している場合もあります。
盲腸の手術などお腹の手術を受けたり、腹膜炎を起こしたことがある方も、卵管周囲の癒着をきたしていることがあります。
また、子宮内膜症も卵管周囲の癒着を起こすことがあります。
③子宮因子:子宮の形が変形し、着床がうまくできない
30代になると子宮筋腫(子宮の筋肉にできる良性の腫瘍)ができる方は珍しくありません。子宮筋腫がある方が全員不妊になるわけではありませんが、子宮の内側の方向に出っ張る粘膜下筋腫があると、受精卵が子宮内膜へ着床しづらくなります。また、筋層内筋腫でも、子宮の壁を変形させるような位置、大きさのものは同様に着床を妨げたり、精子が卵子へ到達するのを妨げて妊娠しにくくなります。また、子宮内膜ポリープや、子宮内膜症の一種で子宮腺筋症という病態があり、それらがある場合にも着床に影響が出ることがあります。
他に、流産や中絶などの手術後に子宮内腔に癒着をきたし、月経量が減少する「アッシャーマン症候群」という病態がありますが、これが起きると内膜が薄くなり着床に影響が出ます。
④頸管因子:排卵の時期のおりものが少ない
排卵が近くなると透明で粘り気のあるおりものがあるのが一般的ですが、子宮頸がんなどで子宮頚部を切除したり、子宮頸部の炎症などにより、排卵期の頸管粘液量が少なくなると、精子が子宮内へ移動しにくくなることがあります。
不妊症の原因【男性側】
以前は不妊症は女性に原因があることが多いと言われていたこともありますが、実際は男性側に原因がある場合も半数近くあるとされています。以下に男性側の原因を説明していきます。
①造精機能障害:精子をうまく作れない
精子の数が少ない、または無い、あるは精子の運動性などの性状が悪いと、妊娠しにくくなります。多くは原因不明ですが、精索静脈瘤やホルモン異常によるものもあります。
②性機能障害:性交渉がうまくできない
勃起障害(ED)、膣内射精障害など、性交渉で射精できないことです。ストレスや性交渉へのプレッシャーなどが原因と考えられていますが、高血圧や糖尿病、心疾患、うつ病、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病などの内科的、精神的な病気が隠れている場合があります。
③精路通過障害:精子が作られているのに出られない
精子は精巣内で作られた後、精巣上体、精管、射精管を通過して射出されます。ところが、そのどこかが詰まっていることで、精巣内では精子が作られているのに精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症という病態があります。
原因として先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症による閉塞、鼠径ヘルニア手術等があります。
不妊症の検査方法
【女性側】
①ホルモン検査
生理中に採血をし、ホルモンバランスが適正か調べます。排卵障害の原因となるホルモン異常がないか、卵巣機能が低下していないかなどが分かります。
②卵管通水検査・造影検査
卵管が通っているか調べます。この検査である程度診断できますが、これらの検査は正診率(診断が正しいこと)は決して高くなく、また、卵管が通過していても機能が正常か(卵子をうまく取り込むように動けるか、受精卵を子宮まで運ぶ繊毛機能が正常か)までは判断できません。
③超音波検査
子宮や卵巣に異常がないか調べます。子宮筋腫やポリープ、卵巣嚢腫の有無がわかります。超音波はその場で診断できる簡便さがメリットですが、それらの病気が超音波で分かった場合にさらに詳細に位置や大きさを評価するためにMRIや子宮鏡検査を追加することがあります。
④基礎体温
月経周期が正常範囲内か、低温期や高温期があり2相性となっているかを見ることで、排卵している可能性が高いかを判断することができます。
⑤クラミジア検査
クラミジアに感染しているかを調べます。感染既往があると、卵管閉塞や卵管機能に異常がある可能性があります。
⑥AMH検査
残りの卵子の数がどれくらいあるかの参考になります。現在保険適応下では、体外受精(採卵周期)の方が検査の対象になります。
【男性側】
① 精液検査
WHOマニュアル第5版では
精液量 |
1.5ml |
---|---|
総精子数 |
39×106 |
精子濃度 |
15×106/ml |
総運動率 |
40% |
前進運動率 |
32% |
生存精子率 |
58% |
正常形態率 |
4% |
としています。
このWHOの基準は、自然妊娠した方の精液検査の下限値を基にしたデータです。実際に自然妊娠した時の精子の所見は、当然誰にも分りませんので、この数値以上であれば自然妊娠できる、あるいはこれを下回っていたら自然妊娠できないというわけではありません。
男性側の精子はその時期やストレスなどで大きく変わります。ただし、複数回検査して低い数字が続くようであれば、自然妊娠の可能性が低いと考えて積極的な治療を考えた方が良いでしょう。
②ホルモン検査、染色体検査
精液検査で異常があった場合、ホルモン値に異常がないか調べます。無精子症の場合は染色体検査を行うことで、手術の適応があるかを判断します。
原因が分からない場合の不妊症の治療方法
上記の検査を行っても原因が特定できるとは限りません。原因不明となった場合、下記のような治療法を検討します。
①人工授精
排卵する可能性の高い日に精液を採取して病院に持参し、精子を遠心分離して子宮内に注入します。
メリット:タイミング法より妊娠率が高くなる。
デメリット:劇的な妊娠率の上昇は見込めない。人工授精当日に時間を作る必要がある。(男性の場合は自宅採精であれば当日朝採取できること、女性の場合は病院の指定した時間から処置に2-3時間程度必要)
費用:タイミング法+処置代5460円
②体外受精(顕微授精)
体外受精とは、女性の卵子を取り出し、パートナーの精子と受精させ、受精卵を培養して、発育した胚を子宮に戻して着床を促す治療です。
このように体の外で受精を行うので体外受精といいます。
大まかな流れは下記のようになります。
A) 卵巣刺激:内服薬や注射を使用し、複数の卵子を育てます。
B) 採卵:卵巣に針を刺して卵子を採取します。(一般的には膣から針を刺します)
C) 受精:精子の数や運動率に問題のない方は体外受精(ふりかけ法、シャーレの中に採取した卵子と調整した精子を置き、自然な受精を期待する)、精子に問題がある方は顕微授精(針で卵子の中に精子を直接注入する)を行い、受精させます。
D) 胚培養:受精した受精卵を培養器の中で育てます。
E) 胚凍結:受精後3日目、あるいは5・6日目の時点で良好に育った胚を凍結します。
F) 胚移植:凍結した胚を融解し、子宮の中に戻します。
メリット:高い妊娠率が期待できる。胚が複数凍結できた場合、2人目以降の治療でも凍結ができた年齢の妊娠率が期待できる。
デメリット:通院回数が多くなりやすい。費用が高額。
費用:15〜20万程度
不妊症のステップアップ治療とは
ステップアップ治療とは、「タイミング法」→「人工授精」→「体外受精(顕微授精)」と段階を踏んで治療を進めていく方法です。明らかな原因がなく、年齢が若く不妊期間が短い場合には自然な形で授かれる可能性が高いというメリットがあります。
一方で、不妊症は時間との勝負という面が非常に大きいという事実があります。基本的に同じ治療を続けていても妊娠率は次第に頭打ちになるため、一つのステップは最大半年程度と考えてステップアップしていくのが妊娠への近道です。
特に、①年齢が高い(35歳以上)②不妊期間が長い③内膜症やクラミジアの治療歴がある④男性因子(精子の数や運動率に問題がある)がある
などの要素がある場合は、早めのステップアップを検討しましょう。
場合によってはタイミング法からではなく、より高度な治療からスタートした方がよい場合があります。どのステップから始めるのが良いかは、原因や年齢、不妊期間、またそれぞれのカップルの治療の意向(なるべく自然な形を望むか、できるだけ確率の高い治療を早期に行いたいか、また何人子供が欲しいかなど)を総合的に考慮して決めていきます。まずは医師に相談してみましょう。
不妊症のご相談は松本レディースIVFクリニック
当クリニックは、「赤ちゃんが欲しいのになかなかできない」と悩んでいらっしゃる方のための不妊治療専門クリニックです。
妊娠しにくい方を対象に、不妊原因の探索、妊娠に向けてのアドバイス・治療を行います。
1999年に開業し、これまで、不妊で悩んでいた多くの方々が妊娠し、お母様になられています。
当院の特徴につきましてはこちらをご参照ください。
https://www.matsumoto-ladies.com/about-us/our-feature/
まとめ
今回は不妊症について、その定義から原因、治療までを解説しました。妊娠は非常に複雑なプロセスで成立するため、原因を特定できないこともあります。また、「1年」という期間は定義されているものの、それを待たない方が良いこともあります。
原因を特定すること、不妊症と診断することが目的ではなく、妊娠することが最終的なゴールのはずです。そのため、子供が欲しいと思ったらまずは気軽にクリニックに相談しましょう。専門医により、適切な検査や治療のアドバイスが受けられるでしょう。