妊娠は非常に複雑なプロセスで成り立っていますが、その大切なステップの一つが「排卵」です。排卵がうまくできないと妊娠への第一歩が踏み出せないことになります。
妊娠を考えた時に、女性側がまず気になることの一つが「自分が排卵しているのか?」ということではないでしょうか。実際に外来でも「排卵しているのか心配」という声はよく聞きます。
今回は排卵とは何か、その仕組みや、排卵障害を起こす原因、治療法など、排卵に関する疑問にお答えします。
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排卵の仕組み・メカニズム
排卵とは、「卵巣から卵子が排出すること」です。これには、脳から分泌されるホルモンと、卵巣で育つ卵子がうまく連携する必要があります。
①卵子が作られる
卵子のもととなる卵祖細胞は胎児のときに作られます。ピーク時に700万個、出生時には200万個になり、思春期には30万個と次第に減っていき、新たに作られることはありません。生まれた時に減数分裂の途中で停止し、生理周期により分泌されるホルモンによりその分裂が再開されます。
②脳からホルモンが分泌される
脳の視床下部という部位からGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が分泌されます。これにより、脳の下垂体でFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が分泌されます。
③FSHにより卵胞が育つ
卵胞(卵子を取り巻く様々な細胞)がFSHにより刺激され、次第に成長していきます。
④LHサージにより排卵する
卵胞が一定の大きさ(約20mm前後)になると急激にLHが上昇する「LHサージ」という現象が起き、十分に育った卵胞から卵子が飛び出(=排卵)します。
排卵障害とは何か
排卵障害とは、「上記のプロセスのどこかに異常が起き、卵が育たない、あるいは育ってもうまく排卵できない」ことです。排卵が起きないと精子と出会うことができず、受精卵ができないため不妊の原因となります。不妊の原因の約25%を占めます。
生理不順や無月経(3か月以上生理がない)、稀発月経(生理周期が39日以上)などの症状が現れる方に多いですが、正常周期や頻発月経(生理周期が24日以下)でも無排卵周期が隠れていることがあります。
何らかの原因によりホルモンバランスが乱れていたり、過去の病気の治療によるものや、先天的な要因がかかわっていることが多いですが、原因不明も少なくありません。
また、基礎体温や超音波検査などである程度排卵の有無を判断することができますが、排卵している周期と無排卵の周期が混在しているケースもあり、数周期の観察が必要な場合があります。
排卵障害の原因と治療法
上記はWHOのグループ分類に従った排卵誘発治療です。
【排卵障害の原因】
GroupⅠ:視床下部性―下垂体機能不全(排卵障害の約10%)
・体重減少や過度の運動
標準体重の80%以下になると排卵障害が起きることがあります。ダイエットやストレス、拒食症、過度な運動によるものが原因となります。
低体重の方の場合、排卵障害の原因になるだけではなく、妊娠後も早産や流産、低出生体重児、産後鬱などのリスクが高くなると言われています。
標準体重の90%まで体重が回復すると、単純性体重減少性無月経で70-100%、拒食症で60-80%の方の生理が回復すると報告されています。
GroupⅡ:視床下部―下垂体―卵巣経機能不全(排卵障害の約85%)
・多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)
PCOSは妊娠可能な年齢の女性の6-10%にみられる比較的頻度の高い排卵障害です。
診断基準は①月経異常②多嚢胞卵巣(超音波検査で卵巣に小さな卵胞がたくさん見える)③男性ホルモン高値またはLH>FSH、の3つを満たすことです。
PCOSは、不妊のみならず、肥満、インスリン抵抗性(2型糖尿病、脂質異常症、心血管疾患、メタボリックシンドロームなどのリスク)や子宮体癌、うつ病など、様々な病気にもつながる体質です。
治療法として
①肥満を伴う場合
肥満がある場合は排卵誘発剤の効果が減弱したり、流産や妊娠合併症のリスクが上昇すると言われています。BMI25以上の場合はダイエットが治療の第一選択です。標準体重まで減量できなくとも、5%程度の原料で排卵再開や内分泌機能の正常化がみられると言われています。
②排卵誘発剤の使用
注射や内服で排卵を促します。PCOSの方の場合、薬の反応域が狭く、少ないと卵胞が発育しない一方で、少し量を増やすと一気に多数の卵胞が発育することがあり、注意が必要です。
③インスリン抵抗性改善薬
肥満や耐糖能異常、インスリン抵抗性を持つ方には、排卵誘発剤にインスリン抵抗性改善薬を併用すると効果的であるという報告があります。
④卵巣開孔術
両側の卵巣に小さな穴をあける腹腔鏡下卵巣開孔術という手術療法です。内服の排卵誘発剤が効きにくい方や、後述する卵巣過剰刺激症候群が起きやすい方に適応となります。
・高プロラクチン血症
プロラクチンは出産後の母乳の分泌に関わるホルモンですが、平時でもプロラクチンが高いと排卵障害を起こします。
プロラクチン値 30ng/ml以上を診断基準としますが、生理周期や食事、運動、睡眠、ストレスなどでも容易に変化するため、複数回測ることがあります。
原因として甲状腺機能異常、薬剤性、下垂体腫瘍などがあり、原因がはっきりしないこともあります。
薬剤性では原因となる薬の中止、甲状腺機能異常では甲状腺ホルモン薬の投与、下垂体腫瘍では場合により手術が必要となることがありますが、多くの場合はドパミンアゴニスト製剤の内服でホルモン値が低下し、排卵が起きるようになります。
GroupⅢ:卵巣機能不全(排卵障害の約5%)
・早発卵巣不全
40歳未満で月経がなくなってしまう状態です。発症頻度としては30歳未満の0.1%、40歳未満の1%に見られます。この診断をされた方でも5-10%が妊娠・出産可能とされています。
早発卵巣不全の原因は様々ですが、卵巣の手術、癌による化学療法、放射線などの医原性や、染色体異常、遺伝子変異、自己免疫疾患などがありますが、原因は明らかでないことも多いです。
診断基準として①40歳未満で6か月から1年間生理がないこと②血中FSH値>40mIU/ml③エストロゲン低値(E2<20pg/ml)があります。
早発卵巣不全に対する有効な排卵誘発法は確立されていませんが、体外受精においてはエストロゲン+排卵誘発剤注射で卵巣刺激を行い、卵胞発育を促す方法があります。また、現在では、若い時に癌になり、治療により将来的に早発卵巣不全になる可能性がある方には未受精卵子を保存する方法が広がっています。
【排卵誘発剤の種類】
①内服:クロミフェン(クロミッド)、シクロフェニル(セキソビット)、アロマターゼ阻害薬(フェマーラ、レトロゾール)
生理周期3-5日目くらいから5日間内服し、卵胞の発育を促します。
まずは最低限の量から始め、無効であれば増量したり、複数発育するなど効果が強すぎる場合は弱い薬に変更したり、種類を変えたりします。
クロミッドは古くから使用されており排卵率は60-90%と高いため、第一選択で使用されることが多いです。一方で子宮内膜が薄くなるという副作用があります。
セキソビットは排卵率は40-80%とクロミッドより効果はやや低下しますが、クロミッドに比べ卵胞が複数育つ確率や低かったり、子宮内膜を薄くする影響は少ないとされています。
フェマーラ/レトロゾールはもともと乳癌の治療薬として開発された経緯があり(抗がん剤ではありません)、排卵誘発剤としての歴史はクロミッドよりは浅いため、「排卵誘発剤=クロミッド」のイメージが強いです。しかしクロミッドに比べ、一つの卵胞を育てるのに有効である、内膜が薄くなりにくいなどのメリットがあります。
②注射:ゴナドトロピン療法
注射にはFSH製剤、hMG製剤などがあり、含まれるホルモンの量、種類や作り方によってさまざまな種類があり、排卵障害の原因によって使用する種類を選択します。
使用方法は治療法によって異なりますが、タイミング療法や人工授精では、なるべく卵胞を複数育てないようにするために「低用量漸増療法」で行います。これは生理5日目くらいから少ない量で毎日注射をし、卵胞発育の程度を見ながら1週間ごとに少しずつ投与量を上げていきます。
【排卵誘発剤のリスク】
①多胎(双子、三つ子など)
排卵誘発剤を使用すると2つ以上の卵胞が育つことがあります。必ずしもそのすべてが受精し着床するわけではありませんが、例えばクロミッドの内服による多胎妊娠率は双子7.5%、三つ子0.3%という報告があります。
多胎妊娠では単胎妊娠に比べ、早産や低出生体重児、子宮内胎児死亡、母体合併症、早産による赤ちゃんの後遺症などのリスクが上昇します。そのリスクは双子より三つ子、四つ子…と上昇します。
②卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)
排卵誘発剤により過剰に卵巣が刺激されることで、卵巣が大きく腫れて捻じれたり、腹水が溜まり脱水症状を起こして血栓症を起こすことで命の危険もある副作用です。
特に、多くの卵胞が育った周期で妊娠すると、妊娠により分泌されるhCGというホルモンによってより重症化することがあり、最悪の場合妊娠の中断をしなければならないこともあるため、卵胞が多く育った周期は避妊を指示されることがあります。
排卵誘発剤は、中々卵胞が育たない方にとっては必要な治療ですが、上記のようにリスクがある場合もあります。上記を回避するために、薬を使用している周期は必ず超音波で発育している卵胞数をチェックし、医師の許可が出るまではタイミングをとらないようにしましょう。
排卵障害と月経不順の関係性
①正常な基礎体温
②無排卵が疑われる基礎体温
① 月経期
生理が始まって終わるまでの期間で、3-7日間程度続きます。前の周期で妊娠しなかった場合、生理前に多く分泌されていた卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が減少し、子宮内膜(受精卵が着床する場所)が剝がれると月経が始まります。
② 卵胞期
卵胞が育ち始めるとエストロゲンが分泌されます。エストロゲンが上昇すると子宮内膜が再生され、止血されます。子宮内膜は徐々に厚くなり、受精卵が着床するための準備をし始めます。月経期には5mm前後だった卵胞は、FSHにより発育し、およそ2週間かけて20mm前後になるとLHサージが起きて排卵します。
③ 黄体期
排卵した卵胞は黄体となり、エストロゲンとプロゲステロンを分泌します。プロゲステロンは子宮内膜の質を変え、着床に適した状態にします。
黄体期は「高温期」とも呼ばれ、低温期に比べると基礎体温が0.3℃以上上昇します。
妊娠が成立しないと黄体は14日程度で退縮し、白体となりエストロゲンとプロゲステロンが減少し、月経が始まります。妊娠するとこの黄体が妊娠黄体として維持され、ホルモンの分泌が継続するため月経がこないことになります。
このように排卵した後にできる黄体の寿命は約14日間であり、どんな人でもほぼ一定です。一方卵胞が発育するまでの期間は個人差、周期による差があります。
卵胞が育つまでに時間がかかる、あるいは卵胞が育たない場合は中々リセットが起きないため月経不順となります。排卵の回数が少ないということは、妊娠のチャンスも少ないということになります。
基礎体温は上記を診断する一つの判断材料になりますが、実際排卵している可能性が高いかの判断や、積極的に治療をすべきかなどの相談は、一人で悩まずに早めに医師に相談しましょう。
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まとめ
今回は排卵についての疑問にお答えしました。排卵はお腹の中で起きているため、本当の意味での「排卵したか?」を100%判断するのは難しいですが、排卵している可能性が高い/低いは様々な検査で調べることができます。
排卵している可能性が低い場合は、治療をすることでその確率を上げ、妊娠につなげることができます。
自分が排卵障害でないかと心配になったら、早めに医師に相談し、検査や治療の相談をしましょう。