不妊治療は以前ほど珍しくなく、一般的な治療として知られるようになってきましたが、それでも中々気軽には話題にのぼりにくいですよね。「結婚して自然と授かると思っていたけれど、中々妊娠しない。でも、受診するタイミングやきっかけがなくてそのまま時間が経ってしまった」というご夫婦は初診にいらっしゃる方でも珍しくはありません。学校では性教育は多少はあるものの、妊娠については避妊について重きを置かれていて、「いつまで妊娠できるか?」という話題は教えてもらえないことが多く、年齢を重ねてから現実を知って「もっと早く知っていたら…」と思われる方もいます。今回は不妊治療と年齢について解説します。
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目次
不妊治療を開始する年齢の目安
「不妊症」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をせず性交渉をしているにも関わらず、一定期間妊娠しないことをいいます。以前はこの一定期間は2年とされていましたが、昨今1年とされました。
ただし、1年とは絶対的な期間ではなく、年齢が上がるにつれ妊娠率が下がることを考えると、不妊症と診断するために1年待つことが正しいとは言えません。期間はあくまで目安でしかなく、夫婦の状況によってはそれを待たずに治療を考えた方が良いことも多くあります。
女性の年齢が30代になると、少しずつ妊娠率が低下し、一方で流産率が上昇します。30代前半からその傾向はありますが、35歳を超えるとさらに顕著になります。医療は進歩しましたが、不妊治療が時間との勝負であることは事実です。1年待つことで結果に大きく影響する可能性があるため、30代で子供が欲しいと考えたら1日でも早い受診をお勧めします。
妊娠が可能な年齢(適齢期)は何歳まで?
女性は年齢の上昇とともに妊孕性(妊娠する力)が低下します。
Henry, L. (1961). Some data on natural fertility. Eugenics Quarterly, 8(2), 81-91
日本生殖医学会HPより
上記の妊孕率は、女性1,000人あたりの出生数を元に、20-24歳を100%として計算しています。妊孕率は年齢の上昇とともに徐々に低下していきますが、35歳を境に低下の速度は増し、40代では20代前半の半分以下になることがわかります。
また、30代前半までの自然妊娠の確率は、1周期あたり25-30%程度と言われていますが、40代では5%程度まで低下するという報告があります。
また、年齢とともに妊娠中の合併症のリスクも上昇します。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの母体合併症や、早産や赤ちゃんの先天異常にも影響します。
そのため、「妊娠が可能な年齢」としては、統計的に40代でも0ではありませんが、実際の妊娠率、安全な妊娠から出産までを考慮すると、「適齢期」は20代から30代前半までと考えられます。
下記「40代の不妊治療の現状とおすすめの方法 費用やおすすめポイントも解説」も併せてご覧ください。
こちらもチェック:40代の不妊治療の現状とおすすめの方法 費用やおすすめポイントも解説
妊娠確率が年齢とともに下がる原因・理由
卵子の質
日本産科婦人科学会より
上記は日本産科婦人科学会が発表している2020年の体外受精の治療成績です。体外受精は現状の不妊治療では最も妊娠率の高い治療方法ですが、それでも女性の年齢とともに妊娠率は低下し、流産率は上昇するため、40代になると生産率(赤ちゃんを出産できる確率)は10%以下になります。
原因として、年齢の上昇とともに卵子の質が低下することが挙げられます。卵子は胎児の時期に作られ、以後新しく作られることはありません。つまり「卵子の年齢=自分の年齢」となります。年齢が上昇すると徐々に細胞が老化していくため、人の体の設計図である「染色体」の異常の頻度が増えたり、卵子のエネルギーの生産工場である「ミトコンドリア」の働きが低下することなどにより、正常な受精卵の発生が妨げられます。
年齢別の胚盤胞の染色体異常頻度
年齢 | 染色体異常率 |
---|---|
30 | 23.2% |
31 | 31.0% |
32 | 31.1% |
33 | 31.0% |
34 | 31.1% |
35 | 34.5% |
36 | 35.5% |
37 | 42.6% |
38 | 47.9% |
39 | 52.9% |
40 | 58.2% |
41 | 68.9% |
42 | 75.1% |
43 | 83.4% |
44 | 88.2% |
45 | 84.3% |
46 | 72.1% |
47 | 100.0% |
48 | 100.0% |
49 | 100.0% |
Fertil Steril 2014; 101: 656より
上記は体外受精で採卵し、受精した後5,6日まで育った「胚盤胞」のうち、染色体異常の頻度がどれくらいかの報告です。一般的に体外受精では胚盤胞まで育った胚を移植することで高い妊娠率が得られますが、その胚盤胞でも年齢とともに染色体異常の頻度が急上昇することがわかります。
実際には、年齢が上昇すると注射などの卵巣刺激にも反応しにくくそもそも多くの卵子が採れない、採れた卵子が受精しない、受精したものの育たない、など胚盤胞まで育つまでにいくつものハードルがあって選別されていきますが、その壁を乗り越えて育った胚でもこのような染色体異常の頻度になります。
年齢という壁を打破するために、様々な医学的な研究がなされているものの、卵子の質を劇的に改善するような決定的な治療法は、現状はありません。
卵子の数
TG. A Quantitative and Cytological Study of Germ Cells in Human Ovaries. Proc R Soc Lond B Biol Sci. 158: 417-433, 1963より
卵子の元となる卵母細胞は、母体内にいる胎児期の5ヶ月頃に最も多く、約700万個作られます。その後急速にその数が減少し、出生時にはすでに約200万個となり、初潮の頃には30万個まで減少します。よく、「ピルを飲んで排卵を起こさなければ卵子の数は維持できますか?」と聞かれますが、排卵が起きていなくても、1か月あたり約1000個ほどの卵子が消失しているため、ピルの内服の有無にかかわらず年齢とともに数は減少していきます。実際には1000個ほどの卵子が残っていても、閉経となります。
婦人科疾患
年齢の上昇とともに、子宮筋腫や子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患の頻度も増加します。これらは慢性的な炎症を起こして卵子の質に影響したり、卵管周囲の癒着が起きて受精卵の卵管内への取り込みが上手くできなくなったり(ピックアップ障害と言います)、子宮の筋肉の異常な蠕動や子宮内腔の変形などを起こし、着床に影響を及ぼすことで妊娠率の低下につながります。
精子の質
これまで女性側の年齢上昇のリスクはよく知られていましたが、男性側の年齢の影響はあまり話題にされていませんでした。ところが、最近の研究では精子も年齢の上昇とともにDNAの損傷率が上昇するという報告があり、女性と同様、35歳が一つの壁と言われています。
受精卵は男性、女性からそれぞれ半分ずつのDNAを受け継いで発生します。男性側の精子のDNAが損傷していれば、当然受精卵としてうまく発育しません。
精子は卵子と違い、減る一方ではなく新しく作られるため、年齢を問わず妊娠できると思われがちですが、実際は年齢による影響は少なくありません。そのため、男性側も年齢が上昇したら早めの治療を考えた方が良いでしょう。
妊活を始めるベストなタイミングは?
では、子供が欲しいと思ったときに、いつから妊活を始めればよいのでしょうか。
2015年に発表された論文では下記のような結果が示されました。
欲しい子供の人数別に見た、妊活開始の上限年齢
1人 | 2人 | 3人 | ||
---|---|---|---|---|
50% いてもいなくてもいい |
自然妊娠 | 41歳 | 38歳 | 35歳 |
体外受精 | 42歳 | 39歳 | 36歳 | |
75% できれば欲しい |
自然妊娠 | 37歳 | 34歳 | 31歳 |
体外受精 | 39歳 | 35歳 | 33歳 | |
90% 絶対に欲しい |
自然妊娠 | 32歳 | 27歳 | 23歳 |
体外受精 | 36歳 | 31歳 | 28歳 |
Hum Reprod. 2015 Sep; 30(9): 2215–2221より
当然のことですが、欲しい子供の人数が多いほど、若い時から妊活を開始すべきと言えます。また、現在では最も妊娠率が高い治療法である体外受精でも、絶対に子供が1人は欲しい場合は、36歳が妊活開始の上限とされています。
ご夫婦の家族計画で何人子供が欲しいかにより治療開始時期は異なりますが、一つの目安として
20代:1年程度妊娠しない
30代前半:半年程度妊娠しない
35歳以降:妊娠を考えたらすぐに
を受診のタイミングと考えると良いでしょう。
ただし、上記はあくまで最長で自然に待ってよい期間です。不妊治療は年齢との戦いという面があり、1か月でも若い方が妊娠率は高くなります。赤ちゃんが欲しいと思ったら早めに受診し、ある程度自然に様子を見て良いか、早期に治療を始めた方がいいか相談するだけでも大きな意味があります。特に、生理不順や、生理痛がひどいなどの症状がある場合は、子宮や卵巣に病気があり実際の年齢より妊娠率が低い可能性があるため、早めに受診した方が良いでしょう。
不妊治療で年齢に左右されずに妊娠確率を上げるには
① 早めのステップアップを心がける
「できれば自然な形で授かりたい」と考えるのは夫婦としては当然の気持ちだとは思いますが、タイミング法や人工授精の1周期当たりの妊娠率は20代の方でも10-20%程度です。さらに、累積妊娠率(最終的に妊娠したカップルの割合)は同じ治療法を続けてもほぼ半年で頭打ちになると言われています。その間年齢を重ね妊娠率は下がっていきますし、実は検査では判明せず、タイミング法や人工授精では妊娠しない原因があった場合(受精障害やピックアップ障害など)、それらの治療をしていた期間は無駄だったということになります。そういった意味でも、年齢が若い場合でもそれぞれのステップでの治療について期間を決めることは大切ですし、年齢の高い方は早期に体外受精を考慮した方が良いでしょう。
② 卵子凍結を考慮する
女性の社会進出が進み、責任ある仕事も任されるようになった昨今、「将来的に子供が欲しいけれど、今ではない」という方もいらっしゃるでしょう。そのような方が将来子供を持つ選択の幅を広げる方法として、卵子凍結があります。通常の体外受精は卵子と精子を受精させ、「受精卵」の段階で凍結させますが、卵子凍結の場合は受精前の「卵子」を凍結します。自費であること(自治体や会社によっては助成金がある場合があります)、卵子凍結をしたからと言って100%妊娠できるわけではないことには注意が必要ですが、凍結した年齢の妊娠率が担保できるのは、今すぐの妊娠は考えていないものの、将来の保険として考えておきたい方には大きな選択肢となります。
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高齢でも不妊治療を成功させるための生活習慣のポイント
① 適切体重を維持する
BMI[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗] 18.5以上25未満が適正体重です。痩せすぎや太りすぎは妊娠に重要なホルモンに影響を与え、排卵障害や、妊娠後の流産・早産や妊娠高血圧症・妊娠糖尿病など合併症のリスクが高まります。
② バランスの良い食事をとる
1日3食規則正しく食べるようにし、たんぱく質や野菜を意識して摂取しましょう。特定のものだけ食べる、逆に特定ものを絶対に取らないなど極端な食生活は栄養の偏りにつながります。
③ 禁煙する
喫煙は男女とも妊娠率を下げます。女性の場合は卵子の質に影響し、男性の場合は精子の数や運動率を低下させます。また、妊娠中の喫煙/受動喫煙は早産や低出生体重児のリスクを上げます。出産後、赤ちゃんの乳幼児突然死症候群のリスクも上昇します。喫煙本数によっては不妊治療で使用できない薬もあります。「妊娠したら止める」という方もいますが、妊活中から出産後まで悪影響がありますので、止めるなら早い方が良いと言えます。
④ アルコールを控える
アルコールの過剰摂取は不妊症のリスクになります。米国生殖医学会は、アルコール1日2単位(缶ビールや缶酎ハイ500mL1缶=1単位)以上で、不妊症の確率が上がると発表しています。
⑤ 適度に運動する
週150分程度の有酸素運動をしましょう。ウォーキングやヨガなど、少し息が上がる程度の運動がおすすめです。
⑥ ストレスをコントロールする
ストレスは社会生活を送る上で避けることはできませんが、過度のストレスは妊娠からも遠ざかります。ストレスを発散あるいはうまくコントロールできる方法を見つけたり、パートナーや友人、医療関係者に相談するのも良いでしょう。良質な睡眠をとるのも良いとされています。
⑦ 感染症のチェック
母子感染に関連する感染症はいくつかありますが、特に風疹は、妊娠中に感染すると赤ちゃんに先天性風疹症候群(難聴、白内障、先天性心疾患など)を起こすことがあります。妊娠中にワクチン接種はできませんので、妊娠を考えたら早めに抗体を調べ、低い場合はワクチンを接種しましょう。 また、クラミジア感染症は卵管閉塞などを起こし不妊症につながることがあります。男女とも症状が出にくく、知らないうちに感染していたり、パートナーにうつすこともあります。
⑧ がん検診を受ける
年に1回子宮頸がん検査を受けましょう。20代後半から増える癌ですが、早期に診断や治療ができれば、妊娠・出産も可能です。
⑨ 生活習慣病のチェック
高血圧、糖尿病などがあると不妊症につながりますし、妊娠中に重篤な合併症を起こすことがあります。病気がコントロールされていない場合は、妊娠や不妊治療に制限が出ることもあります。
⑩ 毎日400㎍の葉酸を摂取する
妊娠する1か月前からの摂取が推奨されているため、妊娠を考え始めたら早めに摂取しましょう。葉酸は胎児の脳や脊髄を形成するのに必要な栄養素で、細胞分裂が活発な妊娠初期に不足すると神経管閉鎖障害(二分脊椎や無脳症)という先天異常が起きる可能性があります。
不妊治療の助成金制度における注意点
2022年4月に不妊治療の保険適応が始まりました。それまで不妊治療は自費であり、自治体により助成金制度を設けていましたが、保険適用によって助成金制度は終了しています(一部の自治体や会社によっては助成金制度がある場合もあります)。また、先進医療(特別に認められた保険と併用できる自費診療)について助成金制度がある自治体もあります。
体外受精において、保険適応は全員が受けられるわけではなく、要件があります。
① 年齢
治療開始時の女性の年齢が43歳未満
② 回数
胚移植の回数が40歳未満6回まで/40歳以上43歳未満3回まで(採卵の回数は上限がありません。出産された場合は回数がリセットされます。)
③ 婚姻関係
法的な婚姻関係あるいは事実婚関係にある。
43歳以上や、制限の回数を超えた場合は自費診療になります。なお、一般不妊治療(タイミング療法や人工授精)は現在年齢や回数の制限はありません。
助成金制度についても同様に年齢や回数の制限があります。詳細については各自治体にお問い合わせください。
不妊治療のご相談は松本レディースIVFクリニックへ
当クリニックは、「赤ちゃんが欲しいのになかなかできない」と悩んでいらっしゃる方のための不妊治療専門クリニックです。
妊娠しにくい方を対象に、不妊原因の探索、妊娠に向けてのアドバイス・治療を行います。
1999年に開業し、これまで、不妊で悩んでいた多くの方々が妊娠し、お母様になられています。
当院の特徴につきましてはこちらをご参照ください。
https://www.matsumoto-ladies.com/about-us/our-feature/
まとめ
今回は不妊治療と年齢の関係について解説しました。実際の診療の現場でも、年齢と妊娠率をお話しすると「思ったより低かった、急がないといけない」という声はよく聞かれます。1日でも若い方が妊娠率は高く、現在の最新の医療技術をもってしても年齢の壁を超えることができないのは事実です。子供が欲しいと思ったら、まずは早めに病院で相談し、治療を開始すべきか、どのように計画を立てたらよいか相談してみましょう。