不妊治療の中でも最も高い妊娠率を誇る体外受精が一般的な治療として知られるようになってきましたが、それでもまだ「何となく怖い、不安」「リスクがありそう」などのイメージを持つ方は少なくありません。その中でも顕微授精は、さらに特殊な治療法と感じて抵抗があるという方も一定数いらっしゃいます。本来、顕微授精は適応のある方にとっては有効な治療法でありますが、漠然とした不安感をお持ちの方も少なくないようです。今回は顕微授精とは何か、どういった方に行われるか、代表的なリスクなど、顕微授精に関する疑問についてお答えします。
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そもそも顕微授精とは?
そもそも顕微授精とは、採卵で得られた卵子に対し受精させる方法の一つです。採取した精子の中で形や動きに問題のなさそうな精子を選別し、針で卵子に注入して受精させます。一般的な方の場合、受精させる方法はふりかけ法(得られた卵子と調整した一定数の精子を同じ容器に入れて自然な受精を待つ方法)が第一に選択されますが、顕微授精の場合は顕微鏡下で精子を選んで直接卵子の細胞質内に注入するため、卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection :ICSI)と呼ばれます。通常のふりかけ法では受精率が極端に低い方、重度の男性因子の方が適応となります。
顕微授精の方法と流れ
① 採卵
卵巣内から卵子を採取します。卵子の周りについている細胞を除去し、培地で洗浄し、成熟している卵子を選別します。
② 精子の調整
採取した精液を調整します。密度勾配遠心法(元気な精子とそうでない精子は細胞密度が違うため、その違いを利用し未熟精子、死滅精子、白血球などを取り除く方法)、スイムアップ法(培養液に精液を分注して、元気に浮いてきた精子を選別する方法)などを用いて形が正常で元気な精子を集めます。
精巣内から手術で取り出した精子の場合、動いている精子が認められず、どの精子をICSIに使えるか判断が難しい場合にペントキシフィリンという物質を用いて精子の運動性の改善を図ることがあります。
③ 精子を卵子に注入
②で得られた精子の動きをとめた後、細いガラスの針に精子を吸引して、①で得られた卵子に、精子が入っているインジェクションピペットを差し込み、卵細胞質に精子を注入します。紡錘体という、受精卵の分裂に必要不可欠な構造体を損傷しないように慎重に注入します。
④ 胚培養
顕微授精を実施した後の受精卵(胚)は、培養液に入れた後、温度や酸素濃度、二酸化炭素濃度、窒素濃度が一定の条件に管理されている培養器内で5-6日間培養します。タイムラプス機能がついている培養器の場合は、定点カメラで観察をし続けるため、通常の培養器と異なり受精確認や発育しているかの確認のために胚を出し入れする必要がなく、胚にストレスがかかりにくいため良好胚になる確率が高いと考えられています。
⑤ 胚移植
5,6日目まで育った胚を、専用のカテーテルを用いて子宮の中にもどします(移植といいます)。採卵と異なり、針を使うわけではないため、通常ほとんど痛みはありません。
顕微授精の代表的なリスク
顕微授精を行う場合には、適応があります。
- ① 受精障害がある(ふりかけ法を行ったものの、受精率が低い)
- ② 重度の男性因子(精子の運動率や数が極端に少ない)
- ③ 無精子症(精巣から直接精子を取り出す手術を行わないと精子が採取できない)
などがあります。
上記を踏まえたうえで、顕微授精のリスクについて説明します。
① 卵巣過剰刺激症候群
通常体外受精は内服や注射をして沢山の卵子を育てます。特に、顕微授精の適応となる方はできれば「受精率が低い」「手術などで精子の数が限られている」などの理由でできるだけ多くの卵子を採りたいと考える方もいます。ただし、あまりに強い刺激にすると卵巣過剰刺激症候群という副作用が起きることがあります。これは過剰に卵巣が腫れ、場合により捻転といって腫れた卵巣が捻じれたり、脱水がひどくなり血栓症を起こして脳梗塞などを起こすことがあります。これらの予防のために内服や注射を使用したり、たくさんの卵胞が育った周期は胚を戻さず一度胚を凍結して、体調が落ち着いたところで移植する方法をとります。
② 採卵に伴うリスク
顕微授精をするためには卵子を卵巣から取り出さなければなりません。通常、採卵は普段の診察で使うような腟から入れる超音波の機械に針を付け、腟の壁を通して卵巣に針を刺し、卵子を取り出します。
A) 出血
この過程で、膣の壁や卵巣からの出血(膣出血0.01-18.8%、腹腔内出血0.06-0.36%)が起きます。ほとんどの場合は圧迫や時間の経過で収まることが多いですが、稀に開腹手術で止血しなければならないこともあります。
B) 麻酔による合併症
麻酔を使う場合は麻酔に対するアレルギーや呼吸抑制などのリスクがあります。
C) 感染症
本来お腹の中は無菌ですが、膣には雑菌がいます。針を刺す過程で雑菌がお腹の仮名に移動し、感染を起こす可能性があります。その頻度は0.03-0.77%とされています。子宮内膜症や腹膜炎の既往がある方は可能性が高まります。
D) 他臓器損傷
卵巣の周りには腸や膀胱、尿管などがあります。卵巣の位置によってはそれらを傷つけることがありますが、その頻度は0.01-0.1%と稀です。
③ 双子のリスク
顕微授精で受精し、発育した胚を移植しますが、1つ戻しただけでも双子になることがあります。産婦人科学会の調査で、胚を一つ戻し、成立した妊娠でも双子以上の多胎と分かったのは0.8%で、自然妊娠で一卵性の双子以上になる確率0.4%の2倍という報告がありました。双子は、生まれる子供にとっては早産により、脳性麻痺や壊死性腸炎などの合併症が起きる可能性、双子の種類によっては体内で亡くなってしまう可能性、母親にとっては長期間の管理入院や胎盤早期剥離、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症などの母体合併症リスクの上昇など、非常にリスクの高い妊娠となるため、我々生殖医療に従事する者は「多胎(双子以上)妊娠は親子の一生に関わる」ことを肝に銘じその予防に努めなければなりません。
④ 費用の問題
保険が効き、3割負担にはなったものの、通常の媒精費用に加え、顕微授精を行う個数により1.5-4万円程度追加でかかります。
⑤ 精子採取に伴うリスク
無精子症の方の場合、精巣内から精子を直接採取する手術を行いますが、手術をしても精子が獲得できないケースや、感染や出血のリスク、また男性ホルモンが低下する可能性があることから何度も行えないなどの問題があります。
⑥ 次世代への影響
顕微授精の安全性については、様々な報告が多く、染色体異常(ダウン症など)や先天奇形(障害児など)を明らかに増加させるという根拠は示されていません。ただし、日本での調査では男性因子を有する群で尿道下裂が上昇するという報告や、精巣内から精子を得る手術を行って得られた精子で妊娠した場合、男児において先天性心奇形や停留精巣などの有意な増加を認めたという報告があります。また、精神発達地帯や自閉症スペクトラムの増加などの報告もあり、安全性についてはいまだ結論が出ていないとされています。重度の男性不妊を持った父親の場合、染色体異常などの原因によっては不育症など流産との因果関係があったり、胎児が男児であるとそれが遺伝するとされています。
そのため、安易な適応拡大は避けるべきという考えがあります。
上記のように、安全性についてはまだ未解明な部分もあります。ただし、一概に「顕微授精はよくない」と決めつけるのは早計です。特に重度の男性因子がある場合や完全受精障害がある場合などは、顕微授精を行わないと妊娠の確率が非常に低く、場合によっては「顕微授精をするか、子供を持たないか」という選択にならざるを得ない方もいます。30年ほど前から顕微授精は治療として行われており、その後沢山の方が治療を受け、無事に出産に至っています。自分たちが適応かどうかは慎重に考えるべきですが、必要な方にとっては妊娠率を上昇させる非常に効果的な治療となり得ます。
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まとめ
今回は顕微授精について解説しました。現状安全性について様々な議論はなされており、安易に誰にでも行うべきではないものの、顕微授精でないと妊娠の確率が極めて低い方がいらっしゃるのも事実です。顕微授精の適応となる方が自然妊娠で授かるのはかなり困難であり、早めの治療が望ましいでしょう。まずは男性も含めて検査を行い、自分たちに合った治療が何か、医師とよく相談しましょう。